素盞嗚命(スサノオノミコト)で忘れてはならないのは、蘇民将来(ソミンショウライ)伝説との関わりです。こんにちの祇園信仰の中心は、いうまでもなく、京都の八坂神社ですが、

 祇園信仰で忘れてはならないのは蘇民将来伝説です。
ここではまず、一般に流布している蘇民将来伝説のあらすじを書いてみます。

  昔、北の海からやって来た武塔神(ムトウノカミ)が、旅の途中で宿を乞うた時、裕福な弟、巨旦将来(コタンショウライ)は断り、貧しい兄の蘇民将来は粗末ながら、心からもてなした。

武塔神が蘇民将来に、子がいるかどうか尋ね、娘がいると答えると、腰に茅の輪を付けさせるようにいった。

その夜、武塔神はそれを目印として一人を除いてすべて殺し滅ぼした。そして武塔神はみずから速須佐能雄神(ハヤスサノオノカミ)と名乗り、茅の輪を付けていれば、疫病を避けることができるといった。

 この話は様々な異伝があって、実際にはもっと長い物語になっています。代表的なものは、『牛頭天王縁起』(吉田家旧蔵本)や『牛頭天王之祭文』(信濃国分寺蔵)ですが、これらの説話はいずれも中世に成立したものと考えられています。

 実はこのルーツとなる話が『備後国風土記』逸文に載っています。風土記は、奈良時代に地方の文化、風土や地勢を国ごとに編纂した書のことです。現存しているのは『出雲国風土記』『播磨国風土記』『肥前国風土記』『常陸国風土記』『豊後国風土記』の5風土記で、このうちが『出雲国風土記』だけがほぼ完本です。この5風土記以外はほとんど失われているのですが、中に他の書物に引用文として記録されている場合があり、これを「逸文」といいます。『備後国風土記』逸文は鎌倉時代に編纂された『釈日本紀』(『日本書紀』の解説書、卜部兼方編)に引用されて残っています。そしてこれこそ蘇民将来伝説のルーツにあたるのです。次に全文を上げましょう。

  《読み下し文(原文は漢文)》
備後国(きびのみちのしりのくに)の風土記にいはく、疫隈(えのくま)の国つ社。
昔、北の海にましし武塔神(ムタフノカミ)、南の海の神の女子(むすめ)をよばひに出(い)でまししに、日暮れぬ。その所に将来(シヤウライ)二人ありき。兄の蘇民将来は甚貧窮(いとまづ)しく、弟の将来は富饒(にぎは)ひて、屋倉一百(いへくらももち)ありき。ここに、武塔神、宿処(やどり)を借りたまふに、惜(を)しみて貸さず、兄の蘇民将来、貸し奉(まつ)りき。すなはち、粟柄(あはがら)をもちて座(みまし)となし、粟飯(あはいひ)等をもちて饗(あ)へ奉りき。ここに畢(を)へて出でましき。

 後に、年を経て八柱の子(みこ)を率(ゐ)て還り来て詔りたまひしく、「我、まさに奉りし報答(むくい)せむ。汝(いまし)が子孫(うみのこ)その家にありや」と問ひ給ひき。蘇民将来答へて申(まを)ししく、「己が女子と斯(こ)の婦(め)と侍(はべ)り」と申す。即ち詔(の)りたまひしく、「茅の輪をもちて、腰の上(へ)に着(つ)けしめよ」とのりたまひき。詔り給ふの随(まにま)に着けしむるに、即夜(そのよ)に蘇民の女子一人を置きて、皆悉(ことごと)に殺し滅ぼしてき。即ち詔りたまひしく、「吾は速須佐雄神(はやすさのをのかみ)なり。後の世に疾気(えやみ)あらば、汝(いまし)、蘇民将来の子孫(うみのこ)と云ひて、茅の輪を以ちて腰に着けたる人は免(まぬか)れなむ」と詔りたまひき。

《現代語訳》
備後国風土記に次のようにある。
疫隈(えのくま)の国(くに)の社(やしろ)。
昔、北の海におられた武塔神が海の神の娘を娶るためにお出かけになったところ、日が暮れてしまった。そこに将来二人がいた。兄の蘇民将来はたいそう貧しく、弟の将来は裕福で家倉が百もあった。ここに武塔の神は旅の宿を借りようとなさると、弟は物惜しみをして宿を貸さなかった。しかし兄の蘇民将来は宿を貸してさし上げた。粟柄を編んだ円座にお座りいただき、粟飯でおもてなしをした。

さて、武塔神はお出かけになって何年か経って後、八人の御子神を伴って帰ってこられた武塔神が申されるには「将来に礼をしようと思う。子などが家にいるか」とお尋ねになった。「自分の娘とこの妻がおります」と申しあげた。そこで武塔神は「茅の輪をつくり、それを腰の上に着けさせよ」とおっしゃった。お言葉のままに茅の輪を着けさせたところ、、蘇民の娘一人を除いて、一人残らず殺して滅ぼしてしまわれた。そして「私は速須佐雄神である。後の世に流行病(はやりやまい)があったときには、お前たちは『私は蘇民将来の子孫です』と言い、茅の輪を腰の上に着けていれば、その人は流行病から逃れることができようぞ」と仰せになった。

このことから茅の輪地域により「木札」や「護符」等もある)を身に着けたり、玄関先にさげたりすると疫病除け、災難除けのご利益があるといわれております。

当社ではこの蘇民将来の伝説にちなんだ、御守を奉製し神札授与所にて頒布いたしております。

ストラップ式で、携帯電話やカバン、財布などに付けていただけます。

ぜひ素戔嗚の大神様のご神徳をお受けください。

蘇民将来守